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減量手術の安全性

減量手術の安全性について

減量手術の安全性について、先進国である米国を例に記載します。

(2003年、危機の年)

In 2003, A Year of Crisis

世界的な肥満人口の増加に加えて、1990年代に入り手術が腹腔鏡で行われるようになると、米国を中心に手術件数が急増しました。2008年には北米において、実に22万件の手術が行われるまでに拡大するのですが、2003年以降、手術件数が一時的に落ち込んだ時期があります。

米国の減量外科の歴史において、2003年は“Year of Crisis(危機の年)と呼ばれます。次の流行は減量手術だとばかりに米国中で無節操に手術が行われた結果、減量手術の意義そのものが疑問視されかねない事実が次々に明らかになりました。具体的には、想像以上に合併症発生率が高かったこと、医療ミスによる訴訟件数の増加、効果や安全性についてのデータベースが未整備で治療実態が把握出来ないことなどが挙げられます。日本でも近年、減量手術を新たに始める施設が増えており、手術件数も増加傾向にあります。減量外科治療が認知され、より多くの患者さまが恩恵を手にすることは望ましいことですが、日本版year of crisisを作らない、同じことを繰り返さないということは重要です。

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アメリカにおける肥満外科手術件数の推移

医療の“質”についての施設間格差

2009年に、HealthGrades社(米国の医療サービスの格付け機関)が、The Fourth Annual HealthGrades Bariatric Surgery Trends in American Hospitals Study(米国の医療機関における減量手術の動向)というレポートを公表しました。これによると、米国で行われた計153355例の減量手術について調査した結果、治療費用ならびに医療の質に関して、極めて大きな施設間格差が存在したと報告されています。研究グループは、統計学的手法によって、施設(=病院)を5段階に分類しました。その結果、最高レベル(五つ星)と評価された施設では、最低レベル(一つ星)の施設と比較して、入院中の合併症発生頻度が67%低く、中レベル(三つ星)との比較では44%低下していました。手術症例数と成績との間には明らかな関連があり、年間手術件数が多い施設ほど合併症発生頻度が低い傾向が認められました。とりわけ、過去3年間の手術件数が75例以下の施設では、一般に想定される合併症発生率より35%多く合併症が発生していました。

合併症の発生が低い施設の特徴として、腹腔鏡手術が主であること、外科医の経験が豊富であることが挙げられています。特に外科医の経験に関しては、数百例以上の経験を有する外科医から、5-10例程度までばらつきが非常に大きく、手術が行われる施設を選択するにあたって必ず考慮されるべきであると述べられています。

手術死亡率に関して、カリフォルニア大学のNguyenらは、データベースに登録されている24166名(1999年から2002年までに、大学をはじめとする教育病院でルーワイ胃バイパス術が行われた)の術後経過を調べ、年間手術症例が100例以上の施設では、明らかに入院期間が短く、術後の合併症発生率ならびに死亡率が少なく、治療費用が少なかったと報告しています。手術件数と術後経過との関連性は、患者が55歳以上の集団ではさらに顕著となり、年間症例数50例以下の施設では、100例以上の施設と比較して、死亡率が3倍高かったと報告しています(注1)。

[参考文献]

(注1)Nguyen NT et al. Ann Surg. 2004

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