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​肥満と妊娠

減量手術を検討されている方の中には、術後の妊娠に不安を感じている方もおられると思います。当院の患者さまには、術後に元気なお子さんを授かられた方が多くおられます。本稿では減量手術と妊娠について解説します。

妊娠可能年齢の女性の肥満は増えている

日本人の正確なデータはありませんが、アメリカでは白人の30.7%、ヒスパニックの38.4%、黒人の49%が肥満との報告があります。

肥満が母体と胎児におよぼすリスク

肥満は母体と胎児の両方にとってリスクです。具体的には以下との関連が考えられます。

母体のリスク

  • 早期流産、反復・習慣流産

  • 妊娠高血圧

  • 妊娠糖尿病

  • 早産

  • 陣痛誘発

  • 腰椎麻酔が困難

  • 帝王切開の頻度が高くなる

  • 分娩後出血

  • 創部感染(帝王切開後)

  • 深部静脈血栓

  • 分娩後子宮内膜炎
    など

胎児のリスク

  • 神経管欠損、心奇形、臍帯ヘルニア

  • 鼓動が確認しにくい

  • 超音波(エコー)で確認しにくい

  • 後期死産

  • 分娩時外傷

  • 巨大児

  • 新生児高血糖、新生児黄疸

  • 食事摂取や体温調整が困難

  • 新生児集中治療室が必要

  • 成人してからのメタボリックシンドローム
    など

肥満の影響(妊娠前)

肥満者では排卵しにくくなることで月経異常になるケースが多い傾向にあります。月経異常を来たしている方で注意が必要な疾患に、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS: polycystic ovary syndrome)があり、多毛を伴うことがあります。また、肥満は人工授精不成功、着床後最初の6週間の流産率増加に関与する、との報告があります。通常妊娠であっても肥満者は妊娠第1期の流産が1.2倍、反復流産が3.5倍高い、との報告もあります。

肥満の影響(妊娠初期)

母体が肥満を伴う場合、胎児の先天奇形(神経管欠損症、特に二分脊椎)のリスクが増加することが知られています。糖尿病を併存するとさらに高くなります。その他、心奇形、臍帯ヘルニアの発生頻度も増加します。これらの原因は不明ですが、糖尿病や葉酸欠乏の関与が考えられています。肥満のために超音波(エコー)で胎児の大きさや状態を正確に評価することが難しい、ということもあります。

肥満の影響(妊娠後期)

妊娠後期では、肥満は妊娠高血圧、妊娠糖尿病、子癇前症(妊娠中に高血圧やタンパク尿を特徴とする疾患)、子癇(異常な高血圧と共に痙攣や意識喪失、視野障害を起こす状態)などを引き起こします。他に、未経産婦ではBMI増加と胎児死亡が相関する、過体重および肥満者の死産のリスクは妊娠28週以上で正常体重者の2倍、37週以上で3倍高い、との報告もあります。

肥満の影響(出産時)

過体重ならびに肥満妊婦は出産時に以下のリスクを有します。

  • 早産(特に未経産婦)

  • 帝王切開(未経産婦の帝王切開の頻度は、BMI 30未満で20.7%、30-35で33.8%、35-40で47%とのデータあり)

  • 巨大児

  • 麻酔困難(腰椎麻酔、硬膜外麻酔での穿刺、全身麻酔での挿管の難易度が増す)

  • 出産後出血、感染、子宮内膜症、深部静脈血栓症
    など

肥満者の子供への長期的影響

妊娠糖尿病を伴った肥満者から在胎月齢よりも大きな状態で生まれた子供は、小児期にメタボリックシンドローム(肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症)になりやすく、妊娠糖尿病を伴わなかった場合でもリスクが高いことが分かっています。

肥満の管理が出産可能女性にもたらす利益

妊娠前の減量(体重減少)が、これまでに述べてきたリスクを減らす最もよい方法であるということに関して多くの報告があります。妊娠前のBMIは妊娠中の体重増加よりも影響が大きく、また妊娠中に体重を落とすことは流産のリスクを高めることにつながります。体重を落とすための介入法として、内科治療(食事療法、運動療法、薬物療法、行動療法)と外科治療がありますが、内科治療は特に高度肥満者においては一時的な効果が得られたとしても、高率にリバウンドすることが知られています。薬物療法として現在、日本で認可されているのは食欲抑制作用を有するマジンドール(商品名:サノレックス)のみですが、BMI 35以上かつ最長3ヶ月間の使用に限定されます。

出産可能女性の肥満に対する外科治療

アメリカ産婦人科学会では、減量手術後1年から1年半は妊娠を避けるよう、推奨しています。一般に、減量が得られるとホルモン環境が改善し、妊娠しやすくなります。従って、この時期はきちんと避妊することが大切です。

結論

肥満は妊娠可能年齢の女性とその子供に対する大きなリスクであり、積極的な管理が必要な病態ですが、内科的治療で十分な減量効果を得ることは多くの患者さまにとって困難です。従って、妊娠を計画する前に十分な時間をとって減量手術を受けることは、母体ならびに未来の子供にとってメリットがあると言えます。妊娠期間中には栄養障害を予防するためのサプリメント摂取が必要になりますが、減量手術後の患者さまの妊娠出産に関する結果は、非肥満者のものと同等と考えられます。

[参考文献]

・Grundy MA, et al. Surg Endosc. 2008 

・MA Maggard, et al. JAMA. 2008