東京都千代田区の四谷メディカルキューブ 減量・糖尿病外科センターです。当院では、減量手術に関する治療やご相談を受け付けています。
近年、肥満症治療の世界では、セマグルチド(オゼンピック、ウゴービなど)やチルゼパチド(マンジャロ、ゼップバウンドなど)といった新しい薬が大きな注目を集めています。これらの薬は食欲を抑え、従来の薬物療法では難しかった大幅な体重減少を可能にしました。実際、臨床試験では、体重が15~20%程度減少するという素晴らしい結果が報告されています。
「注射だけでこれほど痩せられるのなら、もう肥満症の手術は必要ないのでは?」そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、臨床試験で得られた結果が、実際の医療現場でもそのまま得られるとは限りません。
2026年、医学雑誌『Obesity』に、約4万4千人の患者さんを対象として、GLP-1関連薬と減量・代謝改善手術の効果を比較した興味深い研究が発表されました。その結果は、私たちが肥満症の治療方法を考えるうえで、非常に重要なものでした。
監修医師 プロフィール
GLP-1製剤は、臨床試験では驚くほどよく効く
まず、新しい肥満症治療薬がどれほど高い効果を示してきたのか、振り返ってみましょう。
セマグルチドを用いた有名な臨床試験「STEP 1」では、68週間の治療で平均14.9%の体重減少が得られました。一方、チルゼパチドを用いた「SURMOUNT-1」では、72週間の治療で最大用量の15mg群において、平均20.9%もの体重減少が報告されました。
体重100kgの方で考えると、セマグルチドでは約15kg、チルゼパチドでは約21kg減量できたことになります。これは従来の肥満症治療薬と比べても、非常に優れた結果です。
ただし、こうした臨床試験は、あらかじめ定められた条件のもとで実施されています。患者さんは定期的に診察や評価を受け、食事や運動についての指導も受けながら、計画的に治療が進められます。つまり、薬の効果を適切に評価できるよう、環境が整えられているのです。
実際の医療現場では、同じように痩せられる?
実際の診療では、臨床試験と事情が異なります。薬による吐き気や胃腸症状が強く、十分な量まで増量できない方もいます。治療費の負担が大きく、長期間継続できない方もいます。また、通院が途切れたり、仕事や生活環境の変化によって治療を続けることが難しくなる場合もあります。
そこで重要になるのが、「リアルワールドデータ(Real-World Data)」 です。これは、厳密に管理された臨床試験ではなく、実際の医療現場で治療を受けている患者さんのデータを意味します。
薬が理想的な条件でどこまで効くのか、ということだけではなく、実際に治療を始めた患者さんが、結果としてどれくらい痩せられるのか。この違いは、治療方法を選ぶうえで非常に重要です。
約4万4千人を対象とした大規模研究
2026年、米国のBrownらの研究グループは、2018年から2024年にかけて治療を受けた患者さんのデータを解析しました。対象は、BMI 35以上の成人、合計44,025人です。
比較されたのは、次の4種類の治療です。
- セマグルチド:25,804人
- チルゼパチド:7,308人
- スリーブ状胃切除術:8,728人
- 胃バイパス術:2,185人
スリーブ状胃切除術とは、胃の大部分を切除して細長い形にすることで、食事摂取量や食欲に関わる身体の仕組みを変化させる手術です。胃バイパス術は、胃を小さくするとともに、食物が通過する消化管の経路を変更する手術です。いずれも、肥満症に対する代表的な減量・代謝改善手術です。
研究では、これら4つの治療を受けた患者さんについて、治療後の体重減少率を比較しました。患者さんの背景の違いについては、統計学的な方法を用いて調整しています。
結果は? 手術の減量効果が大きく上回った
最も注目すべき結果が、治療開始から1年後の体重減少率です。
| 治療方法 | 1年後の平均体重減少率 |
|---|---|
| セマグルチド | 5.4% |
| チルゼパチド | 9.1% |
| スリーブ状胃切除術 | 24.4% |
| 胃バイパス術 | 29.8% |
薬物療法と比較して、手術では非常に大きな体重減少が得られていました。
例えば、治療前の体重が100kgだった場合、平均減量率を当てはめると次のようになります。
- セマグルチド:約95kg
- チルゼパチド:約91kg
- スリーブ状胃切除術:約76kg
- 胃バイパス術:約70kg
もちろん、これは研究結果を分かりやすく示すための計算例で、実際の減量効果には個人差があります。それでも、薬物療法と手術との間に大きな差があることが分かります。
減量効果の差は、3年後も続いていた
今回の研究でもう一つ重要なのは、治療効果の持続性です。
スリーブ状胃切除術では、1年後に24.4%だった体重減少率が、3年後でも22.0%でした。胃バイパス術では、1年後29.8%、3年後28.4%でした。つまり、手術後にある程度の体重の戻りがみられるものの、3年後も大きな減量効果が維持されていたのです。
一方、セマグルチドでは、1年後5.4%、3年後7.4%という結果でした。チルゼパチドでは、1年後9.1%、2年後10.8%でした。チルゼパチドについては、この研究で3年後の数値は示されていません。
今回の結果からは、実際の医療現場では、減量・代謝改善手術のほうが薬物療法より大きな体重減少をもたらし、その効果も数年間にわたって維持される傾向が示されました。
薬を1年間継続できた人だけで比べても、結果は同じ?
「薬を途中でやめた患者さんが含まれているから、薬の成績が悪くなったのでは?」そのような疑問を持たれる方もいると思います。実は研究者たちも、この点を検討しています。薬の処方が少なくとも1年間継続していた患者さんに限定して、改めて解析を行ったのです。
その結果、1年後の体重減少率は、
- セマグルチド:7.2%
- チルゼパチド:11.7%
でした。薬物療法を継続できた方では、全体の解析よりも良い結果が得られました。しかし、それでもスリーブ状胃切除術の24.4%、胃バイパス術の29.8%には届きませんでした。
なお、この解析は処方記録をもとにしたもので、全員が毎回確実に注射していたことまで証明するものではありません。
なぜ臨床試験と実際の診療では、これほど違うの?
今回の研究結果を理解するうえで、非常に大切なポイントです。
まず、臨床試験と実臨床では、薬の使用状況が異なります。臨床試験では、決められたスケジュールに従って薬を増量し、患者さんの状態も定期的に確認します。一方、実臨床では、副作用、治療費、通院状況など、さまざまな理由で治療を中断したり、十分な量まで薬を増やせなかったりすることがあります。
さらに、臨床試験と今回の研究では、対象となった患者さんの特徴も異なります。今回の研究ではBMI 35以上の方が対象でしたが、STEPやSURMOUNTなどの臨床試験には、BMIが35未満の方も多く含まれています。糖尿病の有無など、患者さんの背景によっても体重減少の程度は変わります。
したがって、今回の研究だけで、臨床試験より効果が小さかった原因を一つに特定することはできません。ただし、薬の持つ潜在的な効果と、実際の医療現場で得られる効果には差が生じ得るという点は、治療を選択する際に知っておく必要があります。
薬物療法の時代になっても、減量・代謝改善手術の役割は大きい
GLP-1関連薬の登場によって、肥満症治療の選択肢は大きく広がりました。これは患者さんにとって非常に喜ばしいことです。
しかし、今回の研究は、薬物療法が進歩した現在でも、減量・代謝改善手術が大きく持続的な体重減少を期待できる重要な治療選択肢であることを改めて示しました。
また、薬物療法と手術は、必ずしもどちらか一方を選ぶだけの関係ではありません。手術後に体重の再増加がみられた場合に薬物療法を併用するなど、両者を組み合わせた治療も行われています。
肥満症は、長期的な管理を必要とする慢性疾患です。治療の目的は、単に体重を減らすことではなく、糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの健康上の問題を改善し、その効果を長く維持することです。そのためには、患者さんの肥満の程度、合併症、生活環境、希望などを踏まえて、適切な治療方法を選択することが大切です。
まとめ
2026年に発表された約4万4千人の研究では、実際の医療現場において、セマグルチドやチルゼパチドによる体重減少は、臨床試験で報告されたほど大きくはありませんでした。一方、スリーブ状胃切除術や胃バイパス術では、1年後に約24~30%という大きな体重減少が得られ、その効果は3年後にも維持されていました。
今回の研究から伝えたいのは、GLP-1製剤の効果が低いということではありません。「臨床試験で示された理想的な治療成績」と「実際の医療現場で期待できる治療成績」は、必ずしも同じではないということです。
そして、薬物療法が目覚ましく進歩した現在でも、減量・代謝改善手術は、高度の肥満症に対して非常に有効な治療選択肢であり続けています。薬物療法と手術療法、それぞれの特徴を理解したうえで、ご自身に適した治療について専門医と相談していただければと思います。
参考文献
Brown A, Patel SS, Kozato A, et al. Real-World Effectiveness of Semaglutide and Tirzepatide Compared With Bariatric Surgery. Obesity (Silver Spring). 2026;34(8):1583–1591. doi:10.1002/oby.70246
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東京都千代田区の四谷メディカルキューブ 減量・糖尿病外科センターでは、保険適用の腹腔鏡下スリーブ状胃切除術や腹腔鏡下スリーブ・バイパス術をはじめ、国内外で多数の腹腔鏡下減量・糖尿病外科手術を行っています。
当院では、減量治療におけるさまざまな治療オプションを備えており、患者さま一人ひとりの状態に合わせた治療を提供しています。治療に関する無料相談も受け付けております。お気軽にご相談ください。
