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減量外科の歴史


Chapter 3 GASTRIC BYPASS & LAPAROSCOPIC GASTRIC BYPASS
(胃バイパス術と腹腔鏡下胃バイパス術)



GASTRIC BYPASS
(胃バイパス術)

メイソン博士と伊藤博士が1960年代に減量手術としての胃バイパス術を最初に開発した。この胃バイパス術は胃潰瘍で部分的な胃切除術を受けた患者さんが体重を減少するという事実に基づいて行われた。数十年の間に胃バイパス術はルーワイ吻合を用いた現在の形となった。ルーワイ胃バイパス術は米国でもっとも多く行われている減量手術であり、2005年には約140,000件の胃バイパス術が行われるであろうといわれている。ラップバンド、胆膵路変更術(BPD)、垂直胃形成術(VBG)などと比べて圧倒的に多く行われている。
I最初の胃バイパス術は、ループバイパス術(注:Billroth II法による再建)で、現在よりもはるかに大きな胃嚢であった。このループバイパス術は胆汁の逆流がおおく、逆流性食道炎などの症状を呈すため、現在ではルーワイ再建となり、またとても小さな胃嚢として胆汁が胃上部は食道に逆流しないようにした。
残った胃と小腸の始まりの部分に食物が通らなくなる(バイパスされる)。初期のころのスタンダードバイパス術は、バイパスされた小腸の量は多くなく、タンパクや他の栄養の吸収障害を起こすほどではなかった。しかし、バイパスされた小腸はカルシウム、鉄の吸収を行う部分であるため、貧血と骨粗鬆床が術後時間がたってから生じる合併症としても多く見られた。そのため、術後ずっとミネラルのサプリメントは必要となる。そのほかにはビタミンB1やビタミンB12の欠乏が生じる。生涯にわたるフォローアップと日々のマルチビタミンの摂取が栄養に関する合併症を予防するために推奨されている。
ルーワイ胃バイパス術は、多くの研究で長期間の体重減少と肥満に起因する合併疾患の改善が証明されている。体重減少の半分は最初の6ヶ月で起こり、ピークは18から24ヶ月目である。肥満に起因する合併疾患(糖尿病、高血圧、高脂血症、関節炎、血栓症、尿漏れ、肝疾患、ある種の頭痛、胸焼け、睡眠時無呼吸、その他)は改善または治癒する可能性が高い。それゆえ、胃バイパス術は生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)を改善させえる。
最も多く行われているルーワイ胃バイパス術は、拡大胃バイパス術とも呼ばれ、栄養摂取制限を含む術式である。この拡大胃バイパス術はスタンダード胃バイパス術を改良してさらに体重減少を図るために開始された。体重減少には効果があるが、スタンダード胃バイパス術に比べて、栄養障害が強くなる可能性がある。
胃バイパス術の作用機序は複雑である。手術のあとには患者さんはしばしば,その行動様式が変わることを経験する。ほとんどの患者さんは食欲の減少と食べてもすぐに満腹感を感じる。患者さんたちは健康的な食事を楽しみ、不適切な食物をだらだら食べることをやめるようになる。食べることの楽しみを奪われるわけではない。これらの変化はグレリン、GIP,GLP,PYYといわれるホルモンや脳の摂食中枢に働きかける消化管からでる物質による可能性があると考えられている。そのほか胃バイパス術のあとの起こりえるダンピング症候群も体重減少の一因となりえていると考えられる。ダンピングはボーっとしたり、顔が赤くなったり、動悸がする、下痢になるなどの症状を呈する。これは甘いものや砂糖の濃度の高いものを食べた10から30分あとに起こる。このため術後は過度の糖分を制限するようになる。一部の患者さんこの糖分にたいする感受性は生涯続くが、ほとんどの方は時間がたつと感受性が低下してくるかまたはなくなる。
術後30日以内に死亡する率は、経験豊富な外科医のいる施設では0.2-0.5%といわれている。経験の少ない施設での死亡率は、経験豊富な施設と比較してとても高くなるといわれている。米国肥満外科学会(ASBS)は"センター・オブ・エクセレンス″(卓越した拠点)というプログラムを開始して経験豊富な施設を認定している。(注:ASBSに問い合わせたところ、このプログラムは北米のみが対象となり、日本の施設は対象とならないとのことでした。)

Advantages of RYGBP:
(胃バイパス術の利点)

食事摂取制限だけの手術よりも体重減少が多い
タンパクカロリーの栄養障害と下痢が少ない(胆膵路変更術:BPD に比べて)
肥満に起因する合併疾患の早い改善と治癒
食欲減少

Complications of RYGBP:
(胃バイパス術の合併症)

早期: 晩期:
縫合不全 肺塞栓 
創感染 出血
呼吸不全 死亡
腹壁瘢痕ヘルニア 腸閉塞
内ヘルニア 吻合部狭窄
栄養障害 吻合部潰瘍

LAPAROSCOPIC GASTRIC BYPASS
(腹腔鏡下胃バイパス術)

開腹胃バイパス術も低い合併症率と死亡率であったが、創部に関連する合併症(感染や腹壁瘢痕ヘルニアなど)は厄介な問題であった。創部の感染は8%程度の頻度で生じ、腹壁瘢痕ヘルニアは20%程度に生じる。腹腔鏡下胃バイパス術は腹部に大きな切開創を作るために生じる術後合併症を少なくするために開始された。
1994年にWittglove医師とClark医師が腹腔鏡下胃バイパス術の経験を報告したのが始まりである。腹腔鏡と開腹の大きな違いは、到達する方法(アクセス)と腹部を見る方法であろう。腹腔鏡下胃バイパス術は通常5-6個の0.5-2.0cm程度の穴を開けて行われる。
LAPAROSCOPIC GASTRIC BYPASS
腹腔は二酸化炭素でみたされて膨らまされ、手術を行うための空間が作られる(Fig.1a)。開腹胃バイパス術はより大きな切開創をくわえて行われ、牽引器で大きく広げられて行われる(Fig.1b)。切開創の大きさを減らすことと牽引による障害を減らすことにより、手術の侵襲は腹腔鏡下手術では少なくなった。しかしながらすべての患者さんが腹腔鏡下手術の適応となるわけではなく、体型や腹部の手術既往などによっても考慮される。
Figure 1a.
Figure 1b.

さまざまな臨床研究で腹腔鏡下胃バイパス術は重症肥満の治療として開腹胃バイパス術の代わりとなりうる安全で効果的な治療法であることが証明されている。Higa医師らは腹腔鏡下胃バイパス術1500例という最も多くの経験を報告した。また他にも前向き無作為振り分け試験での腹腔鏡と開腹の胃バイパス術を比較した研究が3つ報告されている。このうち最も大きな症例数で検討したものはNguyen医師らが2001年に報告したものである。また2004年にはスペインのMurcia医師らが、腹腔鏡と開腹の胃バイパス術の長期成績には違いがなく、もっとも大きな違いはアクセスの方法であり、胃腸の再建の違いではないと報告した。
腹腔鏡下手術の利点は多くあるが、決して開腹手術は意味がないというわけではない。いまだに開腹手術は重症肥満の患者さんに対する方法として多くの意味がある。腹腔鏡手術の相対的な非適応として、超々重症肥満、上腹部の手術を何回もしている例や以前に減量手術を受けていること などが挙げられる。他の制限としては、腹腔鏡下胃バイパス術は外科医にとって難易度の高い手術であり、きちんとできるようになるためには多くの症例をこなさなければならない(ラーニングカーブが長い)。そのため、この手術はこの手術の専門的なトレーニングを受けていない外科医にとっては安易に行うべきではない。腹腔鏡下胃バイパス術の利点と欠点を以下に列挙する。

Advantages of laparoscopic compared to open RYGBP
(腹腔鏡下手術の利点)

出血量が少ない 
在院日数が少ない 
術後の痛みが少ない
肺合併症(無気肺など)が少ない 
回復が早い 
見た目によい (傷が小さくてきれい)
創部の合併症が少ない

Disadvantages of laparoscopic compared to open RYGBP
(腹腔鏡下手術の欠点)

高度の技術を要する手術であり、熟練に時間がかかる  
内ヘルニアの可能性が増えるかもしれない?

SILASTIC R RING GASTRIC BYPASS
(シラスティックRリング 胃バイパス術)
シラスティックRリング胃バイパス術は胃嚢の周りにシリコン製のリングを巻いて、胃嚢が大きくならないようにする胃バイパス術である。これにより長期間の減量成績は良いという報告がある。(注:リングが異物であり、感染したり、胃嚢の中に迷入したりする合併症があるので、YMCでは用いていません)


【参考文献】

■胃バイパス術
Mason, EE and Ito C. Gastric bypass in obesity. Surg Clin North Am 1967;47:1345-51.
MacDonald KG Jr, Long SD, Swanson MS,et al. The gastric bypass operation reduces the progression and mortality of non-insulin-dependent diabetes mellitus. J Gastrointest Surg 1997;1:213-220.


Sugerman HJ, Starkey JV, Birkenhauer R. A randomized prospective trial of gastric bypass versus vertical banded gastroplasty for morbid obesity and their effects on sweets versus non-sweets eaters. Ann Surg 1987;205:613-24.

Wittgrove AC, Clark GW, Tremblay LJ. Laparoscopic gastric bypass, Roux-en-Y: preliminary report of five cases. Obes Surg 4:353-357, 1994.

Higa KD, Ho T, Boone KB. Laparoscopic Roux-en-Y gastric bypass: technique and 3-year follow-up. J Laparoendosc Adv Surg Tech 2001;11:377-382.

Nguyen NT, Goldman C, Rosenquist CJ, et al: Laparoscopic versus open gastric bypass: a randomized study of outcomes, quality of life, and costs. Ann Surg 2001;234:279-289.

Lugan JA, Frutos D, Hernandez Q, et al. Laparoscopic versus open gastric bypass in the treatment of morbid obesity: a randomized prospective study. 2004;239:433-437.

Podnos YD, Jimenez JC, Wilson SE, Stevens M, Nguyen NT. Complications after laparoscopic gastric bypass. Arch Surg 2003;138:957-961.

■シラスティックRリング 胃バイパス術
Fobi MAL, Lee H, Holness R, Cabinda D. Gastric bypass operation for obesity. World J Surg 1998;22:925-935.


※この「減量外科の歴史」は米国肥満外科学会 American Society for Bariatric Surgery (ASBS) のサイトに掲載されているStory for Surgery for Obesity ASBSの了解を得て翻訳し,減量手術.comに掲載しております。 


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