「減量手術」とは

肥満と妊娠

減量手術と妊娠について

 減量手術を受けられる方の中には、若い女性も多く、手術を受けた後の妊娠に関して不安をもたれている方も多くいらっしゃいます。

 最近、減量手術と妊娠についてまとめた論文が続けて出ましたので、それを元に解説をしていきます。

 われわれの患者さんでも術後に妊娠・出産をされた方が2008年12月末日現在で7名もいらっしゃいます。皆さん、問題なく元気なお子さんを授かりました。減量外科の術後には、胎児に栄養がいかなくなって、問題が生じるのではないかと危惧する方もいらっしゃるかと思います。しかし、現実には肥満妊娠よりも、減量後の妊娠・出産のほうがずっと安全にできるのです。

 術前は、不妊治療に多くの費用と時間を費やして子供に恵まれた後、減量手術を受けて、減量手術後には不妊治療をしないで、第二子を妊娠された方もいらっしゃいます。

 ここではその医学的な背景を解説していきます。

1. 妊娠可能年齢の女性の肥満が増えている

 妊娠可能年齢のうち、米国のnon-Hispanicの白人女性 30.7% Hispanic 38.4% non-Hispanic Black women 49% が肥満となっている。

2. 肥満に起因する合併症

母体

  • 早期流産、繰り返す流産
  • 妊娠時高血圧
  • 妊娠糖尿病
  • 予定早産
  • 陣痛誘発
  • 腰椎麻酔が困難
  • 帝王切開の頻度が高くなる
  • 分娩後出血
  • 創部感染(帝王切開後)
  • 深部静脈血栓
  • 分娩後子宮内膜症

胎児

  • 神経管欠損、心奇形、臍帯ヘルニア
  • 用手的に鼓動を確認しづらい
  • 超音波で確認しづらい
  • 後期死産
  • 分娩時外傷
  • 巨大児
  • 新生児高血糖、新生児黄疸
  • 食事摂取や体温調整が困難
  • 新生児集中治療室が必要
  • メタボリックシンドロームの成人してからのリスク

 英国では通常分娩は助産院で行われることが多いが、BMI35以上では助産院での出産は危険であるとしている。またBMI30以上では妊娠のカウンセリングと減量を薦めている。

 妊娠肥満の合併症の多くは妊娠中の体重増加ではなく妊娠前の体重によって規定されるため、米国産婦人科学会でも受胎前の体重減少の重要性を強調している。

3. 妊娠前の肥満の影響

 肥満があると受胎しづらい。BMI30以上の肥満女性の12%は受胎のために医学的な補助を必要とする。肥満はホルモン分泌を変化させ、排卵減少、無排卵、受胎能力の低下を引き起こす。またこのようなホルモン環境の変化により、肥満女性は高用量ゴナドトロピンを投与しても誘起排卵に対する反応の低下を招く。

 また肥満は人工授精や卵細胞質内精子注入法に対しても抵抗性を示し、人工授精の不成功、卵母細胞回収個数の減少、妊娠不成功が高頻度に起こる。また着床後、最初の6週間での流産の率も高い。米国の受精に関するガイドライン(National Institute for Clinical Excellence (NICE) clinical guideline on Fertility) ではBMIは19から30以内であることを推奨しており、BMI30以上または19以下の方は介助生殖技術の成功率が低いことが示されている。

 またBMI29以上の方には妊娠するのに時間が多くかかり、減量することによりその成功率が高くなるということを、本人に告げることが推奨されている。

 英国受精学会(British Fertility Society)はBMI29以上の方は心身一体的アプローチ(holistic approach)による体重減少をおこなうべきであり、体重減少に対する介入が効果をしめすまではNHS(英国の国民健康保険)での資金支援は延期させるべきだとしている。

 また通常妊娠であっても肥満者は妊娠第1期の流産が1.2倍、繰り返す流産が3.5倍であるといわれている。

4. 妊娠初期の肥満の影響

 肥満者の胎児は神経管欠損症、とくに二部脊椎の可能性が高くなり、肥満と糖尿病の両方が存在しているとさらに高くなる。心臓欠損や臍帯ヘルニアなどの先天性奇型も肥満者の子供で多くなる。

 その理由は、診断されていない糖尿病の存在や葉酸の欠乏による可能性として考えられるが、まだ議論されている為、明確な理由は不明である。他の可能性として、術前十分なエコー検査が施行不可であることが影響している。太っていることにより、胎児の大きさや状態を正確に測ることが難しくなるというのが理由である。

5. 妊娠初期の肥満の影響

 妊娠後期には肥満は妊娠高血圧、子癇前症、子癇、妊娠糖尿病などを引き起こす。

 下記は、BMIとそれぞれの妊娠時に起こりえる疾患のデータを表にしたものである。BMIが高値になるにつれ、疾患の発症が高くなっているのが理解でき、BMIとこれらの発症は正の相関関係にあるといえる。

妊娠高血圧妊娠糖尿病
BMI25〜301.74倍1.78倍
BMI30〜403.00倍2.95倍
BMI40以上4.87倍7.44倍
子癇
BMI30〜351.6倍
BMI35以上3.3倍

 肥満も妊娠もインスリン抵抗性を高める状態である。2つが共存すると状態は悪化する。

 妊娠糖尿病と子癇の間にも相乗作用がある。妊娠糖尿病のコントロール不良群は、子癇前症の高い発症が見られる。

 未経産婦ではBMIの増加と胎児死亡は正の相関があり、経産婦ではBMI30以上だと有意差があった。

 過体重および肥満者の死産のリスクは、妊娠28週以上で正常体重の2倍、37週以上で3倍であった。

6. 母体肥満

 予定早期産の頻度はBMIが上がるほど高くなる。特に未経産婦ではその頻度は高くなる傾向にある。子癇前症は予定早期産の徴候となり、BMIとの相関関係がある。BMI35以上の予定早期産となったもののなかで未経産婦の40.2%が子癇前症の診断があったが、多経産婦では18%であった。

 過体重、肥満妊婦は陣痛誘発、鉗子分娩、帝王切開の頻度が高くなる。また胎児仮死の頻度は変わらないといわれているが、巨大児の頻度が高くなり、児頭骨盤不適合により緊急帝王切開の可能性が高くなる。

 子宮筋層の収縮性が弱くなり、分娩第1期の遅れを生じ、帝王切開の頻度が増す。 前向き研究では未経産婦の帝王切開の頻度はBMI29.9以下で20.7%、BMI30-34.9で33.8%、BMI35-40で47%とのことであった。

 帝王切開後の次の出産での経膣分娩の頻度も肥満では低くなる。また、腰椎麻酔、硬膜外麻酔での穿刺や全身麻酔での挿管も難易度が増す。

 帝王切開時にも切開層が皮膚のひだの間に隠れてしまい、バクテリアが増殖して感染を引き起こす。また出産後出血も多くなり、出産後子宮内膜炎、深部静脈血栓の頻度も高くなる。

 肥満母体からの新生児は、出産時外傷に頻度が高くなり、体温調節が困難となったり、低血糖や黄疸のリスクが高くなり新生児集中治療室に入ることが多い。

 肥満者の出産は、入院が長くなり、費用が高くなる。BMI35以上、BMI40以上の肥満者の妊娠期間および出産直後の費用は、健常BMIの人の3倍になるという報告もある。

7. 肥満者の子供への長期的影響

 妊娠糖尿病を伴った肥満妊娠者の、在胎月齢よりも大きな状態で生まれた幼児は小児期にメタボリックシンドロームを構成する病態(肥満、高血圧,高脂血症、糖尿病)になりやすい。また妊娠糖尿病の診断がなくても、肥満妊娠者の子供はこれらの疾患のハイリスクとなる。

 滞在月齢より小さな状態で生まれた子供は、成人してからメタボリックシンドロームのリスクが高いという報告もある。

8. 肥満の管理が出産可能女性にもたらす利益

 妊娠前の体重減少が、前述のリスクを減らす最もよい方法であるということに関して報告は多い。妊娠前のBMIは妊娠中の体重の増加よりも妊娠の結果に大きな影響をもたらす。肥満女性は、正常女性よりも妊娠中の体重増加は少ないが、妊娠関連の合併症は多い。

 妊娠中に体重を落とすことは流産の危険が高まる。

 肥満の管理の介入方法は行動療法、薬物療法、外科療法3つに分かれる。行動療法は食事療法と運動療法であるが、これらは一時的に体重を落としても、リバウンドを起こす。

 薬物治療は英国、米国ではBMI30以上またはBMI37以上で合併疾患があるものが対象となる。Orlistatは脂肪分解酵素阻害剤である為、食事から脂肪の吸収を抑えるが、脂肪便、急な排便、便失禁などの副作用があり、長期には使いづらい。

 Sibutramineは食欲抑制剤であるが、血圧が145/90以上の場合には、使用の継続ができない。肥満患者は高血圧を合併していることが多く、限られた症例にしか使えない。(上記の薬は日本では認可されていないため、保険医療では使えません)

 日本で認可されているのは食欲抑制剤のサノレックスのみだが、保険診療ではBMI35以上で、3ヶ月間にかぎってのみ使用することとなっている。

 長期的な体重減少を達成できる効果的な方法は減量手術のみであることがさまざまな論文より証明されている。

9. 出産可能女性の肥満に対する外科治療

 アメリカ産婦人科学会は術直後の妊娠を避け、12から18ヶ月をあけるように推奨している。しかしながら、ホルモンの正常化により受胎はより早い時期に可能となるので、この時期はきちんとした避妊をする必要がある。報告されている術後の妊娠に関する合併症を下表に示す。

腹腔鏡下調節性胃バンディング術

  • 繰り返す嘔吐
  • バンドの胃内への穿通
  • 胃潰瘍穿孔

腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術

  • 栄養障害
  • 在胎週に比して小さい胎児
  • 小腸虚血

 術後に妊娠を計画している女性には、栄養障害がもっとも重要な因子であろう。しかし、最も栄養障害がつよいと考えられている手術である腹腔鏡下十二指腸スイッチ術(BPD/DS)で検討した報告で、手術後に在胎週数に比べて小さい胎児の割合は非手術群で3.1%、手術群で9.6%と増えた。しかし手術群での割合もこの地域での正常範囲内であった。正常体重児の割合は62.1%から82.7%に増え、巨大児の割合は34.8%から7.7%へと減った。

 報告されているバイパス後の妊娠合併症としては小腸の虚血がある。

 バンド手術後のもっとも大きな合併症は、継続する嘔気と嘔吐である。このような症状となったときには、バンド内に入れてある水をすべて抜いて食物の通りをよくする。しかし、こうすることによって減量治療の効果を減少させ、妊娠中の体重増量として推奨されている以上の体重増加を引き起こすことがある。

 他の報告されているバンド手術後の妊娠合併症は、胃潰瘍穿孔、バンドの胃内への穿通とバンドがしぼんでしまうことがあるが、これらはすべて症例報告のみであり、大規模なスタディでは、両手術ともに妊娠に対して良好な効果が期待できるとされている。

 前向き研究でも同一人物のバンド術前出産とバンド術後出産、および手術をうけていない同程度の肥満者を比較しているが、術後の妊娠は術前妊娠や非手術肥満者の妊娠に比較して、妊娠中の体重増加が少なく、定期的な検診とバンドの調節によって、より良好な体重調節ができた。

 妊娠高血圧や妊娠糖尿病は手術後群で低く、その頻度は非肥満女性と同等であった。また推奨されたサプリメントの摂取率は高かったが、これらを摂取しない場合は、ホモシスチンの濃度が高くなった。(ホモシスチンが高い場合は、神経管欠損症のリスクが高くなる)。

 妊娠前のバンド手術は、肥満妊娠において母体と胎児のリスクを軽減するのに安全で効果的な方法と結論されている。

 胃バイパス術においても、手術後の妊娠に伴うリスクは、非肥満者のそれと同等となり、肥満者の妊娠に比べて、リスクが少なくなると結論されている。

 袖(スリーブ)状胃切除術に関しては手術自体が比較的新しいため、まとまった報告も合併症の報告もまだない。韓国からの学会発表(まだ論文にはなっていない)ではスリーブ術後も問題なく出産できたという報告がある。理論的に考えれば、バイパスに準じて管理を行なえば、問題が生じることは少ないであろう。

 スリーブバイパスに関しては、腹腔鏡下十二指腸スイッチ術(BPD/DS)の栄養吸収をすこし良くした手術であり、体重減少の程度はバイパスと同等である。よってこれもバイパスと同様の管理を行なうことにより、バイパス同様の結果を得ることが出来ると考えている。

10. 結論

 肥満は妊娠可能年齢の女性とその子供に対して、非常に大きなリスクである。そのため、肥満に対する積極的な管理が必要となるが、保存的な対応や内科的な治療などの非外科的治療では体重を減らすことがほぼ不可能である。

 妊娠予定前に十分な時間をとって減量手術を行うことが、母体と未来の子供にとっての利益となる。術後のサプリメントに加えて、他のサプリメントをとることが妊娠期間中には必要となってくるが、結果的に減量手術後の妊娠出産に関する結果は、非肥満者のそれと同等となる。

 女性にとって肥満の管理は、彼らの健康の問題としてだけではなく、安全な妊娠、出産や未来の胎児たちにとって重要な問題と考えられるべきである。

参考文献

The surgical management of obesity in young women: consideration of the mother’s and baby’s health before, during and after pregnancy
Melanie A. Grandy et al.
Surgical Endoscopy 2008 22:2107-211

Pregnancy and Fertility Following Bariatric Surgery
A Systematic Review
Melinda A. Maggard, MD, MSHS et al.
JAMA November 19, 2008 Vol300, No19 2286-2296

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