手術費用について

減量手術の費用対効果

減量手術の費用について考えてみましょう

 アメリカのサブプライムローン問題から端を発した未曾有の不況は、日本にもその波が押し寄せてきました。多くの企業が赤字に転じ、派遣社員、期間労働者がその職を失いました。そんな、不況のときだからこそ、医療費について真剣に考えてみたいと思います。

肥満症と医療費について

 肥満は多くの病気の原因となり、その治療には莫大な費用がかかります。それは、肥満の人は多くの病気にかかりやすいことによります。肥満の人の疾病発症率を正常体重の人と比べると、糖尿病は約5倍、高血圧は約3.5倍、胆石症や不妊症は約3倍、痛風は約2.5倍、心臓病は約2倍、関節障害は1.5倍になるといわれます。その他、最近テレビなどでも話題になっている「睡眠時無呼吸症候群」なども起こしやすくなります。肥満自体に医療費がかかるというよりも、肥満に起因する病気によって医療費が高くなるというわけです。

 現在、減量手術は日本では保険適用となっていないため、多くの機材を用いて、且つ術後にも保険医療ではできないフォローやケアを必要とするため、自費診療で行っています。減量手術を受けた多くの方々が経済的にも効果的だったと述べています。例として、「手術前は自費診療の費用を高いと思ったが、実際に手術を受けた後…今の生活を考えてみると手術費用は決して高いと思わない、むしろ安いと思う。」といわれます。先日お会いしたKONISHIKIさんも「アメリカより全然安いねェ。そんなのでやっていけるの?」と言っていました。

 なぜ、決して安くはない治療費なのに、実際に手術を受けられた方は、経済的にも受けてよかったと思われるのでしょうか?

 通常の手術では、いままで費用対効果ということは語られてきませんでした。僕もいままで多くのがんの手術を手掛けてきましたが、手術を受けて経済的に楽になったという話しは聞いたことがありません。手術をした後も薬をのんだり、抗がん剤を使ったり、色々なサプリメントのようなものを試したり、今まであった病気の治療を継続したり、新たな病気が起こったりと、医療費やその他の費用もかさむばかりでした。

 しかし、減量手術の後は、多くの病気が治ったり、新たな病気にならなかったり、いろいろな費用がかからなくなります。

 ここでは、肥満によってかかる費用や手術によって得られる経済的効果を検証してみました。

日本の医療費

 医療費の自己負担の増大もあり、病気で病院通院中の人は今まで以上にお金がかかるようになりました。 ご存知のように国民医療費は現在増加の一途をたどり、2001年度は31兆3,234億円、国民1人当たりの年間医療費は24万6,100円となりました。

肥満の医療費

 現在、米国では「肥満」は喫煙に次いで予防可能な死因の第2位とされています。米国疾病管理センター(Center for Disease Control;CDC)のデータによると、米国では、肥満人口が年々増加しています。さらに、肥満人口の増加だけでなく、肥満の程度も重症化しているのです。例えば、1986年には成人200人に1人の割合だった高度肥満症(BMI40以上)の人が、現在は50人に1人の割合になり、400万人もいることになります。超肥満(BMI50以上)の人は2000人に1人だったのが、400人に1人と5倍にも増加しています。

 これまで、「ダイエット」はあくまで個人が勝手に行うものであって、病気の治療や喫煙などのように、国をあげて取り組むべきものといったコンセンサスが得られているものではありませんでした。それが今や米国では、国を挙げてダイエットを奨励する方向にあります。このような背景には、医療費の高騰の問題があります。前述したCDCによると、肥満に起因する医療費は、2004年の1年間だけで750億ドル(約7兆9600億円)に上ったということです。米国の医療費は2004年には対GDP比で15%を超える(日本は8%前後)という高額であり、肥満がその原因の中の大きな部分を占める点が問題視されているのです。

 これまで、日本での研究でも東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室からの報告では、日本では、BMIが21〜23の人の医療費を100%とすると、BMIが30以上の人は、2割くらい医療費が高くなるというのです。他の国でも、BMIが30以上の肥満の人の医療費が総医療費に占める割合は、米国で7.0%、ニュージーランドで2.5%、オーストラリアで2.0%と報告されています。また、東北大学より発表されている調査研究においては、肥満、高血圧、高血糖の3つを併せ持つ人は、まったく持たない人に比べ医療費が2倍かかるということも明らかにされています。

 しかし、いろいろ調べていると次のような報告もあります。

 「肥満者の医療費は少ない(Obese People Have Lower Health Costs)」

 これだけ読んで喜んではいけません。これもよく読んでみるととんでもないことが書いてあります。 「20歳から56歳の肥満者のグループは最も高額な医療費を必要とした。しかし、彼らは早死にするので、結局トータルで安くなる。」というものです。

 肥満の患者さんにとっては「私は早く死んじゃうから、医療費は安くてよかった。」というわけにはいきませんので、決してよいニュースではありません。

 京都大学からのデータでは、肥満になった場合は1年間の医療費が1.3倍から2.5倍くらいにまで費用が増加することが分かりました。例えば、標準体重が64キロの成人男性が20キロ太った場合、年間の医療費は、糖尿病が2.5倍、高血圧疾患が1.3倍ほど増加することが予測されています。女性の場合に、これらと同様の医療費が掛かってしまうのは、54キロの女性が17キロ太る場合だそうです。

 逆に考えれば、肥満を解消することにより、上記の医療費が削減できる可能性があるということになります。

糖尿病と医療費

 つぎに肥満者の代表的な合併疾患である糖尿病を考えて見ましょう。(図1)

糖尿病が悪化すると医療費はいくら?
図1 糖尿病と医療費

 糖尿病医療費は、年々増加し2001年度は1兆1,743億円でした。

 糖尿病治療費の総額1兆1,743億円を、治療を受けている患者数212万人で割ると、患者一人当たりの入院と入院外を含めた平均的な年間医療費は約55万円となります。 医療機関における実際の糖尿病医療費を診療報酬明細書から分析した報告では、糖尿病の合併症を有しない患者では年平均33万円、合併症を有する患者では41万円から80万円(平均55万円)であり、合併症の数が多いほど高くなったとしています。

 糖尿病に特徴的な三大合併症は、末梢神経の障害、網膜の障害、腎臓の障害の三つを指しますが、前述の合併症を有する患者の医療費には網膜の障害の際に施行されるレーザー光凝固術や、腎不全が進行した時の血液透析の医療費は含まれていません。レーザー光凝固術は通常11万円、透析は1か月50万円程度かかります。これらを併せて医療費を考えると、糖尿病は合併症をおこさない内に治療した方が、いかにお金がかからなくて済むかご理解いただけると思います。

 また、Yahooでも取り上げていましたので、引用します。

 「糖尿病」 治療怠ると医療費5000万円 早期治療患者の6倍にも (2008.12.11)

 国民病の糖尿病は、早期から治療に努めなかった患者の生涯医療費が5000万円超と、治療に励んだ患者の6倍にも上ることが10日までに、専門医が初めてまとめた症例別推計で分かった。患者は毎年50万人増え、2年後には1000万人を突破する見込みだが、半数は未治療や治療放棄者だ。波紋を呼んだ麻生太郎首相の「何もしない人」発言は、実は一理ある。(八並朋昌)

 「糖尿病と診断されても半数は治療を受けないか、途中で治療を投げ出す。治療が遅れるほど合併症と医療費が増える」と話すのは、初の症例別生涯医療費を推計した富山大副学長・付属病院長で糖尿病データマネジメント研究会代表理事の小林正さん(67)だ。

 厚生労働省の調査では、血糖の指標となるヘモグロビンA1c(赤血球タンパクとブドウ糖が結合したもの)値が6.1%以上の「糖尿病が強く疑われる人(治療中を含む)」は平成9年に690万人、同5.6%以上6.1%未満で未治療の「糖尿病を否定できない人(糖尿病予備軍)」が680万人だったのが、14年に880万人と740万人、18年は820万人と1050万人に急増した。

 背景には遺伝要素に加え、日本人のエネルギー摂取の脂質割合が昭和21年の7%から、平成16年には25.3%に増えたこと、それに運動不足などがある。

 「予備軍を含め毎年約50万人の患者が増え、毎日8.2人が糖尿病による視覚障害と診断され、1時間に1.8人が血液透析を始める計算」と小林さん。「予備軍は境界型糖尿病で、動脈硬化による虚血性心疾患や脳梗塞(こうそく)などの危険があるが、毎年21万〜105万人が糖尿病に進行する」

 糖尿病820万人のうち治療を受けているのは410万人で、このうち141万人(34.4%)は血糖制御が順調で、深刻な合併症を防いでいる。未治療・治療放棄の410万人と、治療しても血糖制御が不調な269万人の計679万人は、合併症の危険が高い。「合併症は軽症段階から心筋梗塞や脳卒中、10年以上続くと透析が必要な腎障害、5〜6年で末梢(まっしょう)神経障害が出て、重症化すれば足が壊疽(えそ)して切断することも。糖尿病網膜症や緑内障は7年以上で出ることが多く、重症なら失明する」

 合併症予防には適切な治療が肝心だ。早期なら、食事・運動療法だけで改善する人も少なくない。症状が進めば血糖降下薬なども服用。重症になれば、服薬に加えインスリン注射を毎日2回打たなければならず、合併症の危険は一層増す。

糖尿病の症例別生涯医療費  小林さんの推計は、健康診断で糖尿病と診断された同じ46歳の男性で、早期から治療に努めたAさん、専門医を受診しても治療を度々投げ出したBさん、70歳まで治療を一切受けず、生活改善も行わなかったCさんの3例で試みた。「Aさんの場合、当初は食事・運動療法で血糖を制御できるが、50代で服薬、60代後半で注射も必要になる。それでも目の合併症はなく、腎障害も軽いまま、健康障害が少ない長い人生を送る」

 一方、「Bさんは50歳で服薬と注射が必要になり、糖尿病網膜症でレーザー治療を受けても軽度視力障害が出て、腎障害も中度に進む。Cさんは服薬と注射を始めても、すでに霧視など重度視力障害と末期腎不全で週3回の透析が必要。心筋梗塞や脳卒中の危険もあり、生命の重大な危機と隣り合わせの晩節となる。Bさんも最終的には同じ状況になる」という。

 そして、「実感として、高血糖が続けば10人中8〜9人は腎障害が出る。未治療・治療放棄の患者が治療を受けるようになれば、合併症を防げる人は282万人に倍増する」と小林さん。

 以上の様に、肥満や糖尿病には、実は莫大な医療費がかかるということがお分かりになったと思います。

減量手術の費用対効果

 ここからは、減量手術を受けた場合の医療費や費用対効果を考えて見てみることにします。

 減量手術を受けた場合、糖尿病や脂質異常症(高脂血症)、高血圧が治癒する確立が高くなります。ここでいう治癒とは、薬の内服などの治療もせずにデータが正常値となり、その状態が一定期間以上続くことをいいます。通常、生活習慣病といわれる慢性疾患は治癒することはほとんどありません。内科的治療は薬でコントロールすることを目的としており、うまくコントロールできていても、薬を一生飲み続ける必要があります。前述の糖尿病治療の最もうまくできている方たちでも870万円以上の治療費がかかります。また重症肥満の方は糖尿病以外にも多くの疾患を患っていることが多く、それらの疾患の治療にもさらに費用がかかります。しかし、減量手術後には、下表のような割合で慢性疾患が「治癒」します。また、薬の量は同じであるが血液などのデータがよくなること、または薬は使っているがその量が減らせている「改善」の状態に高い確率でなることを示しています。(改善の中には「治癒」も含めてトータルの値を出しています。)

 下表には、代表的な減量手術である腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術と腹腔鏡下調節性胃バンディング術の結果を示します。(表1)

腹腔鏡下ルーワイ
胃バイパス術
腹腔鏡下調節性
胃バンディング術
糖尿病治癒率/改善率 83.7% / 93.2% 47.9% / 80.8%
高血圧治癒率/改善率 67.5% / 87.2% 43.2% / 70.8%
高脂血症改善率 96.9% 58.9%
睡眠時無呼吸改善率 94.8% 68%
表1 腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術と腹腔鏡下調節性胃バンディング術の慢性疾患治癒/改善率
引用文献:Bariatric surgery: a systematic review and meta-analysis. Buchwald H, Avidor Y, Braunwald E et al: JAMA. 2004 14:1724-37より改変

 このデータは、多くの報告された論文を集めて、多変量解析という統計的な処理方法を用いて分析した論文で、もっとも信頼度が高く、多くの論文に引用されているものです。

 因みに当院での日本人を対象としたデータでは以下のようになります。(表2)

腹腔鏡下ルーワイ
胃バイパス術
腹腔鏡下調節性
胃バンディング術
腹腔鏡下袖(スリーブ)状
胃切除術
糖尿病治癒率/改善率 100%/100% 50%/75% 66%/100%
高血圧治癒率/改善率 93%/100% 60%/80% 56%/100%
高脂血症治癒率/改善率 90%/100% 33%/77% 33%/66%
表2 四谷メディカルキューブにおける慢性疾患の治癒/改善率
引用文献)Has laparoscopic bariatric surgery been accepted in Japan? The experience of a single surgeon. Kasama K, Tagaya N, Kanahira E Obes Surg. 2008 Nov;18(11):1473-8. Epub 2008 Apr 9. より日本語に改変

 このように、内科的治療では通常考えられない高い率で慢性疾患が「治癒」してしまうため、その疾患に対しての治療費はかからなくなります。

 手術をした重症肥満の方と手術を受けなかった同程度の肥満の方を対象に、比較を見た研究では、術後病院にかかる回数は手術を受けたほうが、明らかに少なくなったという報告があります。(表3)

手術群 非手術群 有意差
入院日数 2.75 日 3.17日 あり
通院日数 21.05日 36.59日 あり
医師診察回数 9.62回 17.0回 あり
表3 入院・通院・診察比較表

 また、同施設からの報告に、手術を受けなかった方々の5年後の合併疾患などの悪化による死亡率は6.1%だったが、手術を受けた方々の5年後の死亡率は0.68%となり、手術を受けることにより死亡率を9分の1になったというものがあります。(図2)前述の「肥満者は早く死ぬので、医療費がかからない。」の論理とは異なり、手術を受けると、長生きして医療費も少なく済むということを示しています。

手術は5年後の死亡率を9分の1に減らす
図2 手術後の死亡率
引用文献: Christou NV, Sampalis JS, Liberman M, et al. Surgery Decreases Long-Term Mortality, Morbidity, and Health Care Use in Morbidly Obese Patients. Annals of Surgery 2004;240(3):416-424. より改変

 また、最近の米国からの報告では、減量手術にかかる費用は平均約2万4500ドルであるが、その金額は術後3年程度の医療費の軽減によりまかなえてしまい、その後は経済的利益が高くなるといわれています。腹腔鏡下手術の場合には、術後13ヶ月目には、同程度のBMI、合併疾患を持っていて手術を受けなかった方たちと比べて、月約900ドルの医療費が安くなったとのことでした。米国は日本と比べると、医療費がとても高いので、健康になることによって得られる経済的な利益への関心が高いため、こういった報告がされています。

参考文献:Cremieux PY, Buchwald H, Shikora SA, Ghosh A, Yang HE, Buessing M: A study on the economic impact of bariatric surgery. Am J Manag Care. 2008 Sep;14(9):589-96.

 では日本ではどうでしょうか? 当院での研究で46名の方を無作為に抽出して、ご協力いただいたアンケートで、術後に関連する支出が月平均で約6万3千円も少なくなっていることがわかりました。その内訳は図3をご覧ください。これは合併疾患が進行し、さらに医療費が高くなることを換算していない、現状を維持できた状態であると考えてのアンケートであり、合併疾患の進行を考えれば米国と同様の結果となると考えます。

 よって、この手術の費用は術後3年以内には元が取れてしまい、その後の経済的利益もある治療方法であると考えられます。 そのため、現在行われているすべての医療の中でもっとも費用対効果が高い治療のひとつであるといわれています。

経済効果(術後支出)
図3 減量外科手術後経済効果
平成20年 肥満症治療学会にて発表データより

 実際に、10代から2型糖尿病を発症してインスリン治療を必要としていた方や100単位以上のインスリンを毎日注射しなければならなかった方、ご両親が糖尿病でお亡くなりになったり、透析、足の切断などを経験されていて、ご自身も糖尿病があって減量手術を受けられた患者さんたちはみな、「この手術を受けていなかったら、将来きっと透析が必要になったり、足を切断していたと思う。」と言われます。この方たちは皆さん、糖尿病が「治癒」して、何の治療もしていません。

 日本でも減量手術は、経済的にも利益のある手術であり、費用対効果の高い治療であるといえます。更に、手術を受けられる方への効果だけではなく、社会全体としての医療費の削減にも繋がり、多くの方を「幸せ」にすることができる治療方法だと考えられます。

参考・引用

米国疾病管理センター(Center for Disease Control;CDC) ホームページ

厚生労働省ホームページ

Medical care expenditure associated with body mass index in Japan: the Ohsaki Study.  Kuriyama S,  Department of Public Health, Tohoku University School of Medicine   Int J Obes Relat Metab Disord. 2002 Aug;26(8):1069-74

Lifetime Medical Costs of Obesity: Prevention No Cure for Increasing Health Expenditure:Pieter H. M. van Baal1  PLoS Medicine Vol. 5, No. 2, e29 doi:10.1371/journal.pmed.0050029

体重増加に伴う糖尿病や高血圧性疾患の医療費の変化に関する研究

京都大学 経済研究所 先端政策分析研究センター  研究員 古川雅一  Kyoto University Working Paper J-57

朝日新聞(2005年12月4日) 「健診義務化で医療費は減る?」

太田市立病院 健康コラム 第36回 糖尿病と医療費 太田市立病院健診センター医長  山内 克実

Yahoo headline 2008年12月11日

レセプト全傷病登録による糖尿病の合併症の医療費分析 第52巻日本公衛誌第7号平成17年7 月15日

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